メンタルヘルス

SNSしか居場所がない社会人へ

「リアルには居場所がない。SNSの中でだけ、自分でいられる」。そう感じている方は、決して少なくありません。けれど、SNSをやめれば解決するわけでも、このままでいいと開き直れるわけでもありません。この記事では、SNSを手放さずに、現実の側にも居場所を少しずつ増やしていく方法を、3つの段階に分けて紹介します。
仕事は淡々とこなしている。職場の人とは業務の話しかしない。地元の友人とは、いつの間にか連絡が途絶えた。帰宅してスマートフォンを開き、タイムラインを眺め、誰かの投稿に反応し、反応が返ってくる。その時間だけは、ひとりではない気がする。そして寝る前にふと、「自分にはここしかない」と思ってしまう。
20代から30代の会社員の方から、こうしたご相談をよく受けます。転勤や転職で知り合いのいない土地に来た方、学生時代の人間関係が卒業と同時に薄れた方、職場の人間関係で疲れ、休日に人と会う気力が残っていない方。共通しているのは、「SNSしかない状態を、自分でも良くないと思っている」という点です。
ただ、「SNSをやめてリアルに戻るか、このままか」の二つしかない、というのは思い込みです。その間には、いくつもの段階があります。
なお、人間関係を整理したいときの考え方は「人間関係を断捨離したいときの進め方」でも紹介しています。

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SNSに居場所を感じるのは、弱さではありません

はじめにお伝えしたいのは、SNSに居場所を感じること自体は問題ではない、ということです。
人には「どこかに属していたい」という基本的な欲求があります。心理学ではこれを所属欲求と呼び、食事や睡眠と同じように、満たされないと心身に影響が出ることが知られています(Baumeister & Leary, 1995)。SNSで誰かとつながり、反応をもらってほっとするのは、この欲求がきちんと働いている証拠です。むしろ、つながりを求める力が残っているからこそ、SNSに向かっているのだと考えたほうが実態に近いでしょう。
それでも「SNSに逃げている自分が情けない」と考えてしまう方は多くいます。真面目な方ほどそうです。そしてSNSを開くたびに自分を責め、余計に消耗していきます。まずここを手放してください。SNSに居場所があるという事実と、あなたの人としての価値には関係がありません。

SNSしか居場所がないと、なぜ不安になるのか

では、なぜSNSに居場所があるのに、不安や寂しさが消えないのでしょうか。SNSが悪いからではありません。理由は、大きく3つあります。

●理由1:他人の投稿の「光が当たっている部分」と比べている
SNSを開くと、誰かの楽しそうな週末、仲間との食事、旅行先の景色が流れてきます。それを見ているうちに、「みんなはリアルが充実しているのに、自分にはSNSしかない」という気持ちになっていく。これが、不安のいちばん大きな源です。
けれど、少し立ち止まって考えてみてください。SNSに載っているのは、その人の生活のうち、いちばん光が当たっている部分だけです。うまくいかなかっ
た日、ひとりで過ごした夜、誰にも言えない悩みは、投稿されません。写真の外側には、あなたと同じように迷ったり、寂しさを感じたりしている時間が、必ずあります。
人は自分と他人を比べずにはいられない生き物で、これは心理学で社会的比較と呼ばれる、ごく自然な働きです(Festinger, 1954)。ただ、SNSでは比べる相手の「編集された一面」しか見えません。実際に、SNSをよく使う人ほど「他の人は自分より幸せで、いい人生を送っている」と感じやすいことが報告されています(Chou & Edge, 2012)。誰かの光の部分だけを見て、自分の全部と比べる。その比べ方で悲しくなっても、それは公平な比較ではありません。あなたが劣っている証拠には、なり得ないのです。

●理由2:居場所が「一つしかない」
居場所が一つだけだと、そこでの評価がそのまま自分の価値になってしまいます。投稿に反応が少なかった日、フォロワーが減った日、誰かの何気ない一言が刺さった日。逃げ場がないので、その痛みをそのまま抱えて眠ることになります。職場でも家庭でも、居場所が一つしかない人が同じように苦しくなるのと、構造は同じです。

●理由3:「眺めるだけ」の使い方になっている
もう一つ、SNSの「使い方」の問題があります。研究では、SNSやインターネットの利用が孤独感を強めるかどうかは、利用時間の長さよりも使い方で分かれることが示されています。既存の関係を保ったり新しい関係をつくったりするために使う場合は孤独感が下がりやすく、現実から逃げるために使う場合は孤独感が上がりやすい(Nowland, Necka & Cacioppo, 2018)。また、投稿や返信をせずにタイムラインを眺めるだけの「受動的な利用」は、気分を下げやすいことも報告されています(Verduyn et al., 2015)。眺めるだけの時間は、理由1の「比べる時間」にもなりやすいのです。

消すのではなく、3つの段階で居場所を増やしていく

ここで多くの方がつまずくのは、「SNSをやめなければ」という発想から抜け出せないところです。やめるというのは、いきなり最終手段に踏み込むやり方です。実際には、その手前に打てる手がいくつもあります。

●第1段階:SNSの中での過ごし方を変える
最初に試していただきたいのは、SNSをやめることではなく、SNSの中での過ごし方を一段だけ変えることです。
具体的には、「眺める時間」を「やりとりする時間」に少しだけ置き換えます。誰かの投稿にひとこと返信する。自分の好きなものについて短く投稿する。同じ趣味の人の投稿に反応する。先ほどの研究が示しているように、受動的に眺めるだけの時間より、相手のいるやりとりのほうが、同じSNSでも心への働き方が違います。
もう一つは、「比べる時間」を減らすことです。開くたびに落ち込むアカウントがあれば、ブロックではなくミュートで見えないようにする。フォローを解除しなくても、表示を減らすだけで十分です。誰にも気づかれず、それでいてタイムラインの空気は変わります。
この段階だけで楽になる方は、実は少なくありません。まずはここで様子を見てください。

●第2段階:SNSの外に「薄いつながり」をつくる
第1段階で足りないと感じたら、次はSNSの外に、ごく薄いつながりを一つ足します。
ここで目指すのは友人をつくることではありません。「顔を知っている人がいる場所」を一つ持つことです。いつも同じ時間に行くカフェで店員さんと会釈をする。ジムや習いごとで顔見知りになる。同じ趣味のオフラインの集まりに、一度だけ顔を出してみる。
こうした、名前も知らないような浅い関係が、心の状態にはっきり効くことが分かっています。ある研究では、店員や近所の人といった「弱いつながり」とのちょっとしたやりとりが多い日ほど、幸福感や所属感が高かったことが報告されています(Sandstrom & Dunn, 2014)。深い関係を一つつくろうとするより、薄い関係を一つ増やすほうが、ハードルもずっと低いのです。 SNSで知り合った人と、実際に会ってみるのも一つの方法です。オンラインで始まった関係が現実の関係に育つことは珍しくなく、むしろ趣味や価値観を先に共有できているぶん、はじめから話しやすいという面もあります。初めて会うときは、昼間の人の多い場所を選ぶなど、安全面への配慮だけは忘れないでください。

●第3段階:SNSを見なくても平気な時間を増やす
それでも「SNSがないと落ち着かない」という感覚が続くようであれば、SNSを見ない時間をつくります。ここが最後の段階です。ただし、断つのではなく、時間で区切ります。
まず、「見たい時間」と「なんとなく見ている時間」を分けてみてください。寝る前、通勤中、仕事の合間。なんとなく開いている時間は、思っているよりたくさんあります。そのうち一つだけ、たとえば「寝る前の30分は開かない」と決めます。
このとき大切なのは、その時間に別のことを置くことです。空いた時間に何もないと、手はまたスマートフォンに伸びます。音楽を聴く、湯船につかる、簡単なストレッチをする。手や体を動かすことでかまいません。「SNSを減らす」ではなく「別の時間を増やす」という形にしておくと、我慢している感覚が生まれにくくなります。

やってはいけない居場所の増やし方

一方で、避けたほうがいい方法もあります。

●いきなりアカウントを消す
「依存している自分が嫌だ」という勢いで、唯一の居場所を消してしまう。これは、新しい居場所ができる前に、いまある居場所をなくすやり方です。多くの場合、数日後に別のアカウントをつくり、消したことを後悔します。減らすのは、増やしてからで十分です。

●SNSでの評価で自分の価値を測る
反応の数を見て一喜一憂する日が続いているなら、それはSNSが悪いのではなく、居場所が一つしかないことの表れです。数字を見ないようにするより、第2段階で紹介したように、数字が関係ない場所を一つ持つほうが、結果として楽になります。

●急に「リアルの友人をつくろう」とする
飲み会に顔を出し、マッチングアプリを始め、趣味のサークルにも申し込む。一度に動くと、疲れて全部やめてしまいがちです。二週間、一か月と時間をかけて、一つずつ。急がないことが、結局はいちばん確実です。

●「SNSしかない自分」を頭のなかで責める
「こんなことをしているから友だちができない」と自分を責めるほど、SNSを開く時間はかえって増えます。責めることでつらくなり、つらいからSNSに戻る、という循環になるからです。いまはここが居場所。理由としては、それで足りています。

SNSの外で、回復する時間をつくる

一方で、避けたほうがいい方法もあります。

居場所を増やしていく間も、寂しさがゼロになることはありません。だからこそ、SNSでもなく、誰かと会うのでもない、ひとりで回復する時間を意識してつくることが大切です。
帰宅してからずっとスマートフォンを手にしている方は多いのですが、これは寂しさを埋めようとしながら、休めていない状態です。散歩でも、料理でも、手を動かす作業でかまいません。頭が別のことで埋まる時間を一日のどこかに置くだけで、翌日の消耗がずいぶん変わります。居場所を増やす工夫と同じくらい、こちらにも効果があります。

よくあるお悩み

Q. SNSの友人は「本当の友人」ではないのでしょうか
A. そんなことはありません。会ったことがなくても、悩みを聞いてもらい、気にかけてもらえる関係は、心にとって実際の支えになります。問題はSNSの友人がいることではなく、それ以外の居場所がないことです。SNSの関係は大切にしたまま、居場所をもう一つ増やすと考えてください。

Q. 人と会う気力がありません。それでも外に出るべきですか
A. 気力がないときに、無理に人と会う必要はありません。第2段階で紹介したのは、会話をしなくてもいい「顔を知っている場所」を持つことです。いつものカフェに行って座るだけでも、SNSの外に自分の時間を置いたことになります。まずはそこからで十分です。

Q. 寝る前にSNSをやめられません
A. やめようとするほど、その対象は頭に残ります。有効なのは、やめることを目指すのではなく、寝る前の時間に別のことを置くことです。前の項目で紹介したように、湯船やストレッチなど、体を使う時間で置き換えるほうが、結果として早く楽になります。

それでもつらさが続くときは

工夫をしても寂しさが抜けない。SNSを見ていても楽しくない。朝から気が重く、仕事に行くのがやっとで、眠りが浅い。こうした状態が何週間も続いているときは、居場所の増やし方だけの問題ではなくなっていることがあります。
また、SNSの中で誹謗中傷を受けている、特定の相手とのやりとりで追い詰められている、という場合は、居場所を増やす工夫よりも先に、信頼できる人や相談窓口に共有してください。一人で抱えて我慢することは、対処法ではありません。

自分がいまどのあたりにいるのか、どこまでが自分で調整できる範囲なのか。それを整理するだけでも、気持ちはずいぶん軽くなります。ICカウンセリングでは、公認心理師・臨床心理士がお話をうかがっています。SNSの外では誰にも言えずにいることがあれば、一度ご相談ください。

【参考文献】

  • Baumeister, R. F., & Leary, M. R. (1995). The need to belong. Psychological Bulletin, 117(3), 497–529.
  • Festinger, L. (1954). A theory of social comparison processes. Human Relations, 7(2), 117–140.
  • Chou, H.-T. G., & Edge, N. (2012). "They are happier and having better lives than I am": The impact of using Facebook on perceptions of others' lives. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 15(2), 117–121.
  • Nowland, R., Necka, E. A., & Cacioppo, J. T. (2018). Loneliness and social internet use. Perspectives on Psychological Science, 13(1), 70–87.
  • Verduyn, P., et al. (2015). Passive Facebook usage undermines affective well-being. Journal of Experimental Psychology: General, 144(2), 480–488.
  • Sandstrom, G. M., & Dunn, E. W. (2014). Social interactions and well-being: The surprising power of weak ties. Personality and Social Psychology Bulletin, 40(7), 910–922.

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